2006年度、CIL豊中第一回市民講座を開催しました

障害者の生活を考える 〜障害者自立支援法から見えるもの〜




障害者の社会活動を支えるガイドヘルプサービスが市町村の裁量による地域生活支援事業に移行するまで、あと3週間と迫っていた2006年9月10日、『2006年度 CIL豊中第一回市民講座』が、豊中市福祉会館にて開催されました。
当日は、折からの悪天候の中、70名以上の人が参加され、間近に迫った、障害者福祉制度の地殻変動第二弾(第一弾は、本年4月の、応益負担開始)に関する最新情報に、耳を傾けていました。

講師を務められたのは、全国自立センター協議会(JIL)の事務局長である佐藤聡さんと、豊中市障害福祉課の主幹である吉田実さんです。


講座は午後1時より開始され、前半は、
佐藤聡さんによる講義が行われました。

はじめに佐藤さんは、
『国の予算には2種類がある』ということを説明されました。
一つは
『国庫負担金』と呼ばれるもので、これは言い換えれば義務的経費例えどんなに予算をオーバーするお金がかかろうと、必ず国は負担をする、というものです。
もう一つは
『国庫補助金』というもので、これはいわばパッケージ経費予算をオーバーしたら、その分は一切出ない、というものです。


介護保険は、国庫負担金としての予算が組まれていたという事で、そのため、予算がオーバーしても、全然騒がれることがありませんでした。
一方、支援費制度は、国庫補助金としての予算が組まれていたのです。そのため、予算がオーバーしたことがことさらに騒がれ、始まって2年もしない内に、介護保険との統合→自立支援法への改正という動きになりました。

最初、支援費制度と介護保険との統合の話が出た時、障害者の国民は、「保険というパッケージ型の制度では、一人一人のニーズが反映されにくい上、制限も多い。自立生活は出来なくなる!」と猛反対しました。しかし、実は予算編成の段階で、既に『パッケージ型』になってしまっていたのでした。そしてそれが故に予算がオーバーしたら、とたんに「お金が無くなる。予算が破綻する。」と国は(恐らく待ってましたかのように)騒ぎだし、保険制度への編入案を打ち出したのでした。

現在、国の予算総額は約82兆円(うち40兆円は借金返済に充てられるため、実質的な予算は42兆円)ですが、そのうち障害者にかけられる負担は、4000億円ほどです。支援費初年度(2003年度)、予算よりオーバーした額は128億円だったのですが、これは割り合い的に見ると、
年収420万円の人が、1280円予算オーバーしたというのと、同じことになります。果たして1280円出すのが、そんなに大変なことか?という話になります。
ちなみに高齢者のほうでは、予算オーバーの額だけで6000億円もあり、それでもあまり問題視されませんでした。


前回2005年度の市民講座の時でも、イラク復興支援にかける予算と障害者施策にかける予算との違いについて言及されていましたが、国は、障害者に対しては、実のところ、お金をかけたがらないのです。


固くて難しい話を、分かりやすく、笑顔も交えて話してくれた、佐藤聡さん



改めて、
『国にお金がないというのは本当か?』

国は、2009年の介護保険見直しを機に、障害者の制度を介護保険と統合させたがっています。そのため、現在始まっている自立支援法は、介護保険法と極めてよく似た制度になっており、佐藤さん曰く、『つなぎの制度』です。

ただ、一つ大きく違うのが、介護保険法では、一度判定された要介護度を、最大で一段階しか上げられませんが、自立支援法では無制限に上げることが出来ます。
しかしながら、このことを知っている自治体はほとんど無く、みな、介護保険と同じだと思い込んでいるということです。

現在、認定区分調査も大詰めを迎えておりますが、人によっては、僅か15分で終わった聞き取りもあるそうで、その原因は、本人が言語障害が非常に激しいために、調査員の一方的な解釈主導で調査が進んでしまった事によるものです。
特記事項の記述にしても、調査員によって、しっかりしている人かそうでないかのバラ付きが激し過ぎる。
さらに、
「調査員の内、障害当事者の占める割合は1%にも満たない。」ということです。

最後に『医師の意見書』については、「知的障害者など、ふだん体自体は悪くないから病院にかかっていない人は、今まで会ったことも無い医者にいきなり意見書を書いてもらうことになる。生活の状況を知らない医者の意見書が、どれだけ意味があるか疑問。」と述べておられました。



前回同様、全体的に深刻な雰囲気が漂っていた、参加者の方々。















後半は、豊中市障害福祉課の吉田主幹の講義が行われました。

冒頭、認定区分調査の進捗状況について触れられ、
「90%以上は終了している。ただ、9月中に全員は無理かな?という状況。国も8月の国会の中で、どうしても完全に終えられない場合は、みなしでサービスを支給してもいいよ、と言っているから、豊中でも当面はそうするかも知れない。二次判定については、8月末時点で6割ほど終わっている。」


そして、気になる区分判定の結果についてですが、主幹曰くは、
「今のところ、非該当(区分ゼロ)の人はいません。二次判定で下がったという人もおらず、変化なしか、もしくは上がっているということです。2段階以上あがった人もいる。約40%の人が、二次判定で段階が上がっている。特に知的・精神各障害者のアップはかなりの割合だが、これは逆に言えば、それだけ一次判定が問題だらけだったということになります。」

次にもっと気になる支給決定についてですが、これについては、
「基本的に、これまで行なってきた支給基準を踏襲する。10月から無くなるサービスについては、これまでと同じというのは厳しいが、必要最小限の変更にとどめ、支給量については現在の量をそのまま認定する。」
という、ひとまずはホッとする内容でした。

そして次が、最も気になる
地域生活支援事業についてなのですが、要約しますと以下のような話でした。

相談支援事業については、これは絶対に必要なものだから、当然今までどおりにやっていく。負担金も取らない
一方で予算については、地域生活支援事業全体に対しては、国から50%、府から25%の補助金が下りるが、相談支援事業単体については、ほとんどが市の負担によるものとなる。
コミュニケーション支援(手話通訳や要約筆記)も、現状を維持して、利用者負担は取らない。
日常生活用具については、利用者にある一定の負担をお願いしなくてはならなくなる。

ただし品物によっては大変高い物もあるので、負担には24000円という上限を設け、市民税非課税の人は12000円とする。
どういう用具が支援の対象になるのかも、基本的には市町村任せとなっているが、『こういう物は対象にならない』と、国から決められている物もある。
これまで対象になっていた物は、対象にしていこうと思う。

ガイドヘルプ(移動支援)については、
基本的には、今までのやり方を踏襲したい。しかし大きな問題も含まれている。今、ガイドヘルプには身体介護あり、身体介護なしの二段階でやっており、それぞれ違う単価が事業所に渡されていた。
今回、制度が変わるにあたり、これを全て『介護なし』とした上で、単価を、今の介護なしよりも少し多い額しようという自治体が出てきている。豊中としては極力二段階で、現状維持でやっていきたい。
ただしその分、利用者には定率負担をお願いすることになり、ここでも負担上限を設けようと思う。
市民税課税世帯の人は4000円、非課税は2000円、生活保護受給者は0円、という三段階を設けたい。利用対象者の増減の変化は、今のところない。

ということでした。

ここで一つ、他市の事業所を利用した場合の利用料計算法が問題となってくる。市町村独自ではあるが、利用者は、自分の住む市だけでの活動ということは殆どないから、一面、周囲の市との協調・調整が必要となる。


具体的かつ熱心に、市の取り組みを語っていた、吉田実主幹



以上が地域生活支援事業における基礎的な項目についてになりますが、これ以外にもこの事業には、『その他項目』というのが設けられています。ただこの『その他項目』については、
「最初はそれぞれの市が自由に決められるのかと思っていたのですが、実際には国から与えられたメニューが決まっていて、その中から選びなさいというものだった。」ということです。

この中に、訪問入浴サービスがあるのですが、これについては、ガイドヘルプと同じ上限を設けるということです。

そのほか、
日中一時支援という枠が設けられます。
これは何かというと、
今回の法律改正で、『短期入所事業(デイサービスやショートステイなどの施設利用を支援)』における、宿泊を伴わない形での施設利用が出来なくなり、その受け皿として、市が設けるというものです。
豊中市としては、あすなろと、障害福祉センターひまわりにおいて、知的障害者や障害児を対象に、日中利用が出来るようにします。
また、障害を持つ中学生のために、『継続的に(毎日)利用出来る』という枠を新たに作る方針です(小学校については、留守家庭児童会を利用)。場所としてはあすなろ限定となるが、15:30〜19:30の時間枠でおこなおうということです。
利用負担については、時間帯によって300〜600円とし、ガイドヘルプ、訪問入浴と同じ上限を設けます

なお、ガイドヘルプ・訪問入浴・日中一時支援については、3つそれぞれに対して負担を課すと相当な額となるので、合わせて一括での負担としたい、ということです。実際、この3つを併せて利用している人はかなりいます。


地域生活支援事業では、国から補助金が下りますが、豊中市には今年度、7400万円が下りるということで、これは予想よりはるかに低い額です。
しかもこれは地域生活支援事業全体に対する補助金で、実際には豊中市は、ガイドヘルプだけでも4億円が必要ですので、今後予算面では相当厳しくなる中、何とか今の水準を維持していきたい。吉田主幹は、こう結んでおられました。


最後、質疑に応答していた両講師。 徳山理事長による閉会のあいさつ。
「市民が『使いやすい』と感じない制度に、
いい制度は無い。」と、支援法を
バッサリ斬っていました。















いよいよ来月から、自立支援法に完全に移行します。
国から自治体へ、
『三位一体改革』の影の側面が、これからクッキリと浮かび上がってくるのかどうか?
豊中市は、現状のサービス維持して、何とか利用者の生活がこれまでと変わらないようにしようと、尽力している印象を受けました。
しかし、当面は現状を維持出来ても、一方では『経過措置という域を脱しないと言わざるを得ない』とも、最後には言われていました。
予算面での負担が極端に変わる中で、1年後、2年後は、果たしてサービス水準はどうなっているか分からない。まだまだ、明日をも見えない、というのが、本当の姿だと言えます。

果たして、今のこの時期を、「思い返せば、あの頃が一番不安だった。」と、懐かしめるような時代がやってくるのか?
これからが、本当に向き合って生きる℃nまりだという参加者の思いが、伝わってきました。



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