2006年度 第二回市民講座を開催しました


2007年2月18日(日)、CIL豊中 第二回市民講座を開催いたしました。
今回のテーマは、『精神に障害を持つ人のサポートを考える』でした。

講師を務めて下さったのは、大阪府立大学人間社会学部助教授の、三田(みた)優子さんです。
三田さんは、参加者に力強く語りかけるように講演され、
「心の病なんて、誰もが持ち得るもの。手帳を持っていないけど実は精神障害のある人は、たくさん存在していると思う。もっと精神障害というものを、『障害名』として見ずに、『精神的にしんどいもの』という状態≠ナ見て、身近に感じたほうが良い。」
と呼びかけていました。
「私は『健常者』という言葉もきらいだ。そもそも『常に健康』なんていう人がいるか?」
とも問いかけていまして、全く同感だなと思いました。
そして、自立支援法で三障害が統合されたことについては、
「障害を、種別ごとに分ける時代はもう終わっていると、私は思っている。たとえば身体障害の人の中にも、精神障害の人はいるし、『身体の部分だけの支援をしたらそれでおしまい』ではない。そういう意味では、三障害が統合されたということを、もっと歓迎してほしい。精神障害者の置かれている実態も見えてくる。」
と話しておられました。

WHO(世界保健機構)の報告によれば、人が一生のうちに心の病にかかる割合は、25%に達する時代になっているということです。日本では自殺率も世界一で、うつ病に悩む精神科医も急増しているということです。三田さんは、
「私は精神障害者の支援をしていると、どっちがどっちだか分からなくなる事がよくあります。自分のほうが助けられているのではないか?と。」
と話していました。

三田優子さんの、講義中全景。
三田さんは、パワフルでユーモアもある語りでした。
今回初めて導入された、パソコンによる要約筆記。
左端に立っておられるのは、手話通訳の方です。



さて、今回の講座では、講師の三田さんは『みんなに参加してもらうのが好き』ということで、途中、いくつかクイズが出題されました

問題「うつ病」について正しいと思うもの1つに○をつけて下さい。
@うつ病は遺伝である A好発年齢は20才代である B頭痛や目まいなどの身体の症状だけのうつ病もある
→正解はB(間違っても@は選ばないように。遺伝ではないかと思い込み、病気を周囲に隠す人もいる)

問題「うつ病」について正しいと思うもの1つに○をつけて下さい。
@うつ病の治療には薬と休養が大切である Aうつ病は自殺の危険の少ない病気である Bうつ病になると元気がなくなるので、温かい励ましが必要である
→正解は@(間違っても絶対にBだけは選ばないように。励まされると、本人はプレッシャーになる)

問題「統合失調症」について正しいと思うもの1つに○をつけて下さい。
@心の病気だから、身体(脳)には全く異常がない A身体(脳)に何らかの失調が起こり、その結果症状が出る Bこの病気は、親の育て方や家庭環境が大きく影響している
→正解はA(間違っても絶対にBだけは選ばないように。自分のことを責めている親が大勢いる)


参加者の人も積極的にクイズに答えており、盛り上がっていたと思います。
そのあとは、精神障害者へのサポート十ヶ条(当事者による作成で、一部を抜粋)を紹介して下さいました。以下がその内容です。

1)精神障害者もまた人間であるから、十人十色の人格・個性をもっている。まずはその人格・個性を受け入れることからしか、全ては始まらない。ただし、精神症状による業を、その人間の人格だと取り違えないでほしい。
2)精神障害者についての既成の考え方を、まず疑ってかかることが大切。「精神障害者もまた刃物をうまく使えるように」支えてほしい。
5)医療従事者や専門家ほど、精神障害者の本音を知らない場合が多い。精神障害者と対等な関係を作っていこうとする中での葛藤や親密さの積み重ねこそ、精神障害者についての理解を測る唯一の物差しである。
6)風呂に入ってゆったりすることは、精神的なリラックスにつながるが、「風呂に入りなさい」と命令されることはストレスとなる。つまり、「生活指導」ではなく、「生活支援」をしてほしい。
10)精神障害者は自らの人生を、その主人公として生きていくことを望んでいる。また自らの人生の中で受けてきた傷を癒したいと願っている。その時、サポートする側にできることは、その条件づくり以上でも以下でもない。だから、細く長くお付き合いを願いたい。


精神障害の問題は関心が高く、74名の方が参加されました。



さて、後半では3名の方を交えてのシンポジウムが行われました。シンポジストは、地域活動支援センター る〜ぷでコーディネーターをされている気鮓(きずし)晶子さん、そして豊中市障害福祉課の松山とも代さんです。本当はもう1人、精神障害当事者で、大阪精神障害者連絡会、事務局長の、塚本正治(まさじ)さんが来られる予定だったのですが、諸事情により来られなかったので、代わりに当センターの精神障害ピア・カウンセラー、山口博之が参加いたしました。

はじめに気鮓(きずし)さんが、る〜ぷの活動を紹介し、
「精神障害のある方が、いつでも好きなときに使えるところ。登録制を取っていて、150名ぐらいの人が登録している。いろいろな創作活動などが出来るフリースペースがあって、スタッフのほうで大枠のプログラムは作るが、あとは参加した当事者がその中で自由に活動し、スタッフはそれを横からフォローするような役割。そして、当事者が日常生活を送る中での、いろいろな相談に乗っている。居心地のいい喫茶店みたいな存在だと思って頂けたら、いいと思う。」
と述べられました。

次に当センターの山口が、
「僕は大阪精神障害者連絡会でも活動している。みんなやっぱり、自分ではどうにも救えないところに追い込まれる中でも、夢を持ちたいなと思っている。周りの人には、気軽に接して気軽に付き合って欲しい。『精神障害者だから』というので、決めてしまわないで、1人の人間として見て欲しい。付き合っている内に、それぞれの個性も見えてくる。精神的に落ち込んだりおかしくなったりというのは、健常者でも身体障害者でもある。それと、いつでも僕は、
『理想と競争しないで下さい。』と言っている。理想はすなわち完璧。完璧と競争したら負ける。負けたらやる気が萎える。けど、理想に向かっている、よりよい物に向かっているのだと思えば、気持ちも明るくなってくる。
と話しました。

そして松山さんは行政の立場から、
「障害者自立支援法になり、これはどの自治体でもそうなのだが、今年度中に、『障害福祉計画』というのを策定することになっている。現在豊中では、手帳を持っている精神障害者の数は約1,800人で、年々増えていっている。豊中市には精神科の病院が2ヶ所あり、クリニックもどんどん増えている。社会復帰施設では、精神障害者対象の福祉工場が1ヶ所あって、これは大阪府内でも2ヶ所しかない。ホームヘルプサービスについては、豊中市では2002年度からようやく始まり、現在、実施している事業所が8ヶ所ある。」
と、豊中市の現状を述べておられました。そして、
「今回の自立支援法になって、三障害が統合されたことにより、どなたでも精神障害者のヘルプに行ける制度になったのは、ある意味プラスだと思う。『障害福祉計画』は、鋭意作成中であるが、出来るだけ実行性のある、支援に直接結びつく計画を作りたい。『施設から地域への移行』、『退院可能な人の地域復帰』、『就労可能な人の一般就労支援』が、自立支援法の三本柱だが、平成23年度までに、退院可能な66名を対象に、病院だけではなく、地域の社会資源とも連携して計画を作りたい。」
と、今後の取り組みについて語っていました。


シンポジウムのパネラーを務められた、左から松山とも代さん、気鮓晶子さん、山口博之さん。


今回は、『精神障害がある人への支援』という、今まで取り上げた事のないテーマで講座を開き、相当反響も大きいものがありました。アンケートの回収率も極めて高く、主催者としては、大変有難い限りです。
全体をとおして、やはり『心の病は誰にでも起こり得ることで、手帳を持つ持たないは、いざとなったら問題ではなく、1人の人間として、心がしんどくなる事は絶対ある。そういう意味で、精神障害者に対しても、もっと身近に感じ、自然体で接して欲しい。』というメッセージが、一番強く印象に残ったと思います。

ご多忙な中、本講座の講師とパネリストを務めて下さった、三田優子さん、気鮓晶子さん、松山とも代さん、本当に貴重なお話を、有難うございました。
そして参加して下さったみなさん、設営作業をお手伝いして下さったみなさん、有難うございました。


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