2009年度 第2回市民講座を開催しました。
テーマ:発達障害を知ってみる      〜分かることで解り合える〜


2010年3月22日(月=祝)、今年度第2回市民講座を開催致しました。
今回のテーマは、最近マスコミでも取り上げられる事が多くなってきた『発達障害』だったのですが、80名の定員を大幅に上回る約100名の方が参加されまして、会場内は混雑の様相を呈する結果となりました。
途中の休憩時間に座席を詰めて頂くなど、参加されたみなさまに窮屈な思いをさせた事を、大変申し訳なく思っております。


混雑していた会場全景です。


さて、今回講師には、大阪府立能勢高校、教育専門員の山口正和さんと、西宮市にあるメインストリーム協会職員で、当事者の桐間智弘さんに来て頂きました。

先ず1人目の講師は、山口正和さんです。
山口さんは、教育現場で障害者と接してきた経験も踏まえつつ、以下のようなお話をされました。

「最近は、発達障害と診断される事が、ある意味トレンドみたいになっている風潮が見られる。例えば、『今まで気にいらない事があったけど、それが発達障害のせいだと思えば気楽になる』とか、そういうある種の便利さがある。それは危険な現象だと思う。」
「もともとこの障害は、脳に何か損傷があるのではないか?と言われてきた。だけど損傷が見付からなかったから、今では脳の機能障害と言われている。このように原因も、分かっている様で未だよく分からない。出現率も各国各地域間でバラバラである。」
「発達障害というのは、基本的には知的な障害があるかどうか?というのが、判断の基準になっている。そして、特に昔は『知的障害がある』となると、同じ“障害がある”でも、位置的に低く見られてしまったりしていた。」
「厳密に言うと、発達障害というのは、『知的障害はない人』という事になっている。しかし実際にはしばしば、同じに解釈されたりしている。」
「最近は、自閉症についても『自閉症スペクトラム』といって、上下左右の方向に広がりがある。左右には情緒面やコミュニケーションが出来ているかどうか?という点での広がりがある。上下には知的な障害があるかどうか?という点での広がりがある。」
「知的障害のある人の場合、実際には、犯罪の被害者になるケースが圧倒的に多い。それなのに、偏った報道等によって、『加害者である』というイメージを持たれてしまっているのが、現状である。」
「知的障害のある人は、知らない人だったらされてビックリする様な行為を、する事がある。豊中の街でもそういう“ハプニング”が起こった事はあるが、例えば学校の同級生(健常児)が、本人の特徴をうまく説明して、周りの人から理解を得たケースもある。」

改めて、発達障害というのは社会の関心は集めつつあるものの、まだまだあいまいな部分も多く、それゆえに、どちらか一方向の解釈に決め付けてしまうのは、危険なんだなと思いました。
そして、例えば小学生で知的障害のある人が、知らない人だったらビックリするような行動を取った時に、その人の事を説明出来る同級生がいるというのは、豊中がおこなっている統合教育の、一つの良さなのかも知れないと思いました。


山口正和さん。穏やかで解りやすい語り口でした。














次に2人目の講師は、桐間智弘さんです。
桐間さんは現在24歳。学習障害の当事者なのですが、実は障害がある事が分かったのはほんの1年ほど前で、それまでは健常者として生きていました。
もともと子どもの頃から、うまくひらがなが書けなかったり、計算がどうしても出来なかったりで、勉強はめっぽう苦手でした。
小学生の頃はいじめられた事もあったそうですが、桐間さん自身は、自分の『出来ないこと』や『ドンくさい事』を笑いに変え、いじめられているのではなく、いじられてると思うようにしていました。
そして中学時代は野球、高校時代はラグビーと、スポーツにも打ち込んでいたのですが、サインを覚えるという事が出来ず、監督はもとより、後輩からもよく怒られていたそうな。

青春真っ盛りの高校時代には彼女も出来ましたが、デートをして目的地まで導こうとするも、地図をうまく読む事が出来ませんでした。また、方角も分からなくて結局辿り着く事が出来ず、挙げ句、「私は年上の彼氏と付き合いたかった」と、2歳年下の彼女から言われてフラれるという、ホロ苦(にが)な体験もしました。

アルバイトをした時も、お金の勘定が何回やってもうまく出来ず、就業後、夜な夜な家で必死に計算ドリルに打ち込んだりして、出来る努力は全てしましたが、効果は上がりませんでした。
「オレ、どうしようもないほど、ドンくさいねん。」
周囲からも同様の事を言われ続け、『あくまでも自分の問題』と捉えていた桐間さん。その認識が大きく変わったのは、現在の職場であるメインストリーム協会に就職した事が切っ掛けでした。
メインストリームでは、アテンダント(登録)介護者として働き始めたのですが、一生懸命やるも、介護の利用者の家に行く地図を読めなかったり、周りから指示を出されても、それを覚えたり内容を理解するのに、かなり苦戦しました。

ある時、桐間さんは研修でネパールに行きました。メインストリームには、海外の貧しい国で、障害者の生活環境向上や自立生活センター立ち上げの支援をする、海外研修があるのです。
そこで桐間さんは、「水を5本買ってきて」と言われたのですが、買ってきたのは3本。
「おい、2本足りないぞ。」と言われると、桐間さんは『2本』という数を覚えるのが難しいと感じ、メモ用紙を取り出したのです。
それを見たスタッフ、思わず一言訊きました。「桐やん、お前、LD違うん?」
「LD?」聞いた事も無い言葉を言われて、桐間さんは思わず訊き返しました。この後、自分でLD=学習障害や、発達障害のことを調べ、診断(テスト)を受けた結果、実際に学習障害である事が判明したのです。2009年3月のことでした。

桐間さんは、「自分の本当の事を知れたのは良かったと思う。」と話していました。ただその一方で、
「もし小さい時に、自分が障害者である事が判って手帳を取っていたら、自分の人生は全く違うものになっていたかも知れない。普通の学校に通い、一般の職場でアルバイトをするという体験は、無かったかも知れない。」と述懐しました。
最後にまとめとして、
「医学モデルに偏った障害の判定の仕方には、疑問を感じている。IQなど、特定の方法だけで、数値にこだわった判定基準にするのではなく、その人個人の状態に目を向けて、その人に合った支援をしてほしい。」と話していました。


桐間智弘さん。なかなかのイケメンではありませんか!


この後質疑応答が行われ、「自分は教師をしているが、生徒の中に、アスペルガー症候群と思われる人がいます。本人はその事を知りません。就職活動も控えています。本人に知らせるべきでしょうか?」
という質問が出されました。これに対して、
「敢えて『アスペルガーだと思うよ』と言わなくてはならない事は、ないと思いますよ。『こういうところは考え方が人と違うね。』とか、『みんなとこういう違うところがあるね』ということは、言ってもいいだろうけど。それと、先生が一人で抱え込んだりする必要もないですよ。」
という回答がなされました。

今回は、発達障害というテーマで講座を行いましたが、冒頭にも書いたとおり、予想を大幅に上回る参加者が集まりまして、いかにこの障害に対する世間の関心が高いのかという事を、証明する結果となりました。
特に桐間さんの、なまの体験談というのは、本当に興趣に満ちた内容で、もしかしたら、ある程度近い体験をしている方も、おられるのではないでしょうか?
いまだ不明確な部分もある障害だけに、偏った見方だけが一人歩きするような事は、無いようにしていきたいものです。

当日参加されたみなさま、そして講師を務めて下さったお二方、本当に有難うございました。


熱気に包まれていた会場内。 質疑応答で回答する両講師。







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