2012年度第2回 市民講座を開催しました
テーマ:いろんな働き方があるんやで!   〜知的障害者就労の現場から〜

2013年3月17日(日)13:30〜16:30まで、豊中市立ルシオーレホールにて、2012年度第2回、CIL豊中主催市民講座を開催しました。
今回は、知的障害者の就労について取り上げました。
かつては、授産施設や福祉就労以外に、知的障害者の就労への道は難しいとされていましたが、最近では企業に雇用される割合も増えてきつつあり、また、就労移行支援の事業所などのサポート体制も、存在しています。

果たして、知的障害者の就労雇用の現状と課題はどうなのか?
今回、先ずは就労移行支援の立場から、高槻第3共働舎『花の会』施設長の佐藤智昭さんに、そして企業の立場から、株式会社ダイキンサンライズ摂津 取締役工場長 後藤金丸(きんまる)さんと、そこで働く知的障害当事者の社員の方に、それぞれ講師を務めて頂きました。


高槻第3共働舎『花の会』 佐藤智昭さん:

『花の会』は1983(昭和58)年に設立され、今年で30周年になります。
現在、就労支援のほか、日中活動やケアホームも運営しています。

では、先ず就労移行支援とは何か?
それは、障害者自立支援法に定められた就労支援事業の一つで、企業などへの一般就労を希望し、実習等を通じて適正に合う職場への就労が見込まれる65歳未満の障害者に対して、就労移行支援事業所を利用しての作業訓練、企業での実習、そして就労後の定着支援を行うという事業です。

就労移行支援の枠を利用するには、2年間という年限を守らなくてはなりません。
もし、2年以内に就職出来ないと、その事業所からは退所という事になり、受け皿の一つとして、雇用関係にはならない職場への就労(例えば授産施設への通所)を目指す、就労継続支援B型(就労継続支援A型というのが、雇用関係になる形での就労を目指す支援)という事業があります。
この就労継続支援(A型もB型も)は、支援学校を卒業してすぐに利用する事は出来ません。
必ず、就労移行支援を経ての利用となり、過去に就職活動を経験した人が対象となります。

就労継続支援B型を利用して何らかの作業に従事する事になった人は、そこでの経験を通じて、のちに再び就労移行支援→継続A型になる場合もあります。

『花の会』で実施されている就労移行支援の内容は、清掃訓練(長岡京市内のマンションまで行きます)やビジネスマナー習得、面接や履歴書作成の練習、パソコンの基本スキル習得や職安同行などです。

各利用者は、最初にどこまでどんな仕事が出来るのか、アセスメントをして評価をします。

この評価を通じて、仕事の向き不向きが見えてくるので、そのあとは職安等に対して求人検索をします。
順調にいけばやがて面接にまで進んでいきますが、面接には極力職員が同行して、障害ゆえにどうしても緊張してしまう本人に代わり、本人の良さや強みをアピールしたりしています。

また、障害者雇用に関する制度や助成金など、企業にとっても有益と思われる情報を伝える事もしています。
その様にして、企業の側にも少しでも採用する気になってもらう様、アプローチする事も大切ですね。

面接に合格すると、その後には雇用される事を前提として実習が行われます。
実習開始当初は、完全に職員の付添という体制になりますが、日を追って独り立ちとしていきます。

なお、雇用形態に関しては、フルタイムの正社員として雇用される事はありません。
全てアルバイトとして、大方短時間での勤務として働いています。
主な就労先としては、高齢者施設での、入居者の着替え介助や洗濯、シーツの張り替え、部屋の掃除等がある他、中央卸売市場での野菜の袋詰め、ガソリンスタンド等があります。

先程述べたとおり、就労移行支援には、2年間という利用年限がありますが、『花の会』では、出来れば半年、遅くとも1年で就労が実現する事を常に目標としています。
というのは、1年以上過ぎると、急激に就職率が下がってしまうからです。
就職率が下がる原因はいくつか考えられますが、よく聞くところでは、元々どこかで働いていて失業した人が、本人自身は早く仕事を見つけようと頑張っているのに、親のほうが「失業手当もらってるんやから、まだええやん」と本人の再就活に待ったをかけ続け、それが繰り返されている内に本人のモチベーションが低下した、という例がある様です。

さらに、一度定着しても、職場で最も相談に乗ってくれるなど、キーパーソンとなっていた人が異動や退職でいなくなってしまうと、それが原因で離職という事もあり、色々な面でモチベーションの維持というのは課題となります。


株式会社ダイキンサンライズ摂津、後藤金丸さん:

ダイキンサンライズ摂津は、現場が全員障害者という職場です。
親会社はダイキン工業で、大阪府摂津市の障害者施策への協力という目的もあって設立されました。
企業なので、社員は第一に、経済的自立をする事を目標としています。

『障害があっても、社会貢献が出来るはず』、というのが根底の考え方としてあり
、勤務はフルタイムで、8:15〜17:15まで働いています。
障害者が主役というのが特徴の企業で、障害者が働きやすいよう、作業方法の改善や、良好な人間関係作りに取り組んでいいます。
仕事だから大変に厳しいですが、底抜けに明るい職場でなくてはならない、という気持ちを持ってやっています。
機会があったら見学に来てみて下さい。
障害があっても能力はアップ出来るので、そのために必要な支援はどんどん行い、その代わり、障害者だからといって甘く扱うとか、特別に見ることはありません。

障害種別で見た、ダイキンサンライズ摂津社員の内訳は、以下のとおりです。

肢体不自由者  29名(2)
聴覚障害者    31名(4)
知的障害者    21名(6)
視覚障害者     1名
精神障害者    18名(3)

障害者合計   100名(15)

※上記の内 重度障害者63名

健常者 ・・・・・・ 13名(4)
()内数字は女性

上の表の数字に現れている様に、女性社員が少ないのが、ちょっぴり悩みのタネかも知れない、とか・・・・・。
障害者雇用全体としては、過去約20年、右肩上がりで増えており、特に最近3年間で大きな伸びが見られています。
年齢層は、一番若い人が19歳、最年長は62歳です。
さらに、キャリアーアップを目的に、障害者の管理職・監督職への登用にも力を注いでいるほか、工場見学の案内役も、障害者が務めています。

さて、ダイキンサンライズ摂津とは、何をしている企業なのでしょうか?
ダイキンサンライズ摂津は、一言で言うと『物を生産する企業』です。
業務用エアコンスイッチボックスや付属品などの、電気電子部品の組み立て、廃却エアコン・フロンガスの回収、完成した部品の包装・袋入れ・化学品製造と瓶への区分け、空気清浄機の修理、メガネなどのコーティング剤の製造、セキュリティーカードの作成などをやっています。
この様に、物を造る企業なので、生産活動を通じて自分自身の成長と社会的貢献を、日々目指しています。
業務の中には、特別な資格が必要なものも少なくないのですが、有資格者の知的障害者もいるという事です。

相談さえしてもらえれば、障害当事者の実習生も積極的に受け入れます。
実際、年間約50人の実習生が来ます。
「将来の就労を見据えて職場実習を体験する場に、当社を選んでみて下さい」と、後藤さんもPRをされていました。

今回は、知的障害者の就労がテーマですが、知的障害者が働きやすい環境づくりの取組として、『作業の細分化・単純化・作業指示書のビジュアル化』をおこなっています。
たとえば、どの棚のどの段から、どの部品を取るべきなのか解りやすくするために、棚にランプを付け、それが点灯した箇所の部品を、順次取っていくというのがその一つです。

そのほか、聴覚障害者のためには、トイレ内に緊急避難用フラッシュライト、視覚障害者用には白黒反転画面、筋ジスの人のためには、腕が上がらなくても電話対応出来るマイク・イヤホン付き携帯電話を、それぞれ導入しています。

仕事は大変厳しいですが、だからこそ、みんなで遊ぶ時はうんと楽しみ、また日頃より、特に精神障害者に対しては、一日に一回は必ず声掛けをするなど、相談しやすい雰囲気作りをする事を心掛けています。
やはり病気の事というのはなかなか本人にとって打ち明けるのに勇気が要るものなので、声掛けをするなどして信頼関係を築いておかないと、いざという時、対応出来ません。
また、精神障害者や知的障害者の中には、何かで怒鳴り声を出すと、『自分が怒られている』と思い込む人もいる事から、怒鳴り声を発しないよう気を付けています。

★★★ここで知的障害当事者の社員の方(左写真)に登場していただき、後藤さんとの問答形式でお話を伺ってみましょう。☆☆☆

後藤:「うちの会社に入る前から入った時に掛けての経緯を話してくれる?学生時代の事とか」
社員:「就職のことはまだ先の話やと思って全く考えておらず、友達と遊んだりしていました。高校を卒業してから、初めて職業訓練校に通いました」
後藤:「うちの会社に入ろうと思った切っ掛けは何?」
社員:「訓練校の職員や家族と相談して、実際に実習も受けて入社を決めました。ダイキンというのは大きい会社だし、そういうところへ入社しようと思いました」
後藤:「実際に入社してみて、どうや」
社員:「色々な仕事があって大変ですけど、先輩や上司に教えてもらって、リラックスしながら出来ていると思います。最初の1年ぐらいは色々覚えるのが大変でした」
後藤:「今は具体的に、何の仕事をしてるん?」
社員:「今は潤滑関係の仕事を主にしていますけど、今年の4月から別の仕事を任される様になるかも知れないとは、上の人から聞いています」
後藤:「今度は機械加工の仕事をやってもらおうと思ってるからな。スキルを上げてもらうためにね。人間関係は?」
社員:「上司はやさしく接してくれてますので、うまくコミュニケーション取れてると思います」
後藤:「例えば、他の仕事を『これ忙しいから手伝って』と言われる事もあるやん。そんな時はどうや?」
社員:「逆にそうやって仕事をしていって、スキルも給料も上がっていくので、苦には思いません」

後藤:「さっき、学生時代は遊んでばっかりと言ってたけど、うちに入社してから何か変わった部分はある?」
社員:「僕が入社して以降、父が転勤しまして、今、母も定期的に父のところに行くので、家の事は私と兄弟で管理しているのですが、この年になって、『親って大変だったんだ』と痛感する日々です」

最後に後藤さんの持論を一つ。
「指示をして相手がミスをした場合は、90%は指示をした側、つまり指導者が悪い。具体的な指示出しをしていれば、ミスは出ない。“解る人には解る”という様な教え方をしてはならない。これは障害者に対してに限らない。」


この後、質疑応答がなされまして、ダイキンサンライズ摂津の後藤さんに対して、「知的障害者の採用基準は?」という質問がなされました。
回答は、「一番必要なのは正直である事だと思う。それと素直である。真面目に会社に来る。実は、重度よりも軽度の知的障害の人の方が、就労継続が難しいんです。なまじっか理解しながら、自分の中で噛み砕いてこれないというのがあるので。重度の人は、ホンマに言われたとおりに仕事を行うんでね、採用した限りはローテーションを組んで、「何が出来るか?」というのを見ていくんですが、1人採用するのに40人の応募があるという実態があるので、どの1人が当たるかは判りませんけど、インスピレーションというのもあるんでね。そういうのも含めて、面接等でよく観て決める、というのがやり方です。知的障害者の中には、何かコミュニケーションを図ろうとするとパニックになるけど、仕事をやり出したら抜群によく出来る、という人もいます。要はこちらのニーズが何か?という事にも寄りますね」
というものでした。

また、佐藤さんに対して、「企業から聞く情報として、どういったニーズが一番多いか?企業からの求人のニーズは、常に寄せられているのか?」という質問がなされました。
回答は、「知的障害者を雇用しようと思って求人を出している企業は、作業を創っているという所が結構多いんです。例えば高齢者の施設だと、部屋の掃除の仕事を用意するとか、クリーニングの仕事を開発するとか。最近は、あまり敷居が高い様な条件で知的障害者の求人をしてくる企業は少ないです。逆に、そういうレベルの高いところへは、発達障害者とか精神障害者への就職先として有るのかな?と思うんですけど」
というものでした。更に
「敢えて仕事を創出しているという事は、法定雇用率の制度に特化した取組なのか、障害者の就労支援に特化した取組なのか、どちらだと思われるか?」という突っ込んだ質問も出され、佐藤さんの回答は、
「ウチから就職していく人は、小さい規模の職場である事が多い。だから法定雇用率云々というのは、あまり考えていないと思う。後者の方が正解ですね」
というものでした。

  


2013年4月より、国の定める、障害者の民間企業への法定雇用率が、1.8%から2%に引き上げられます。
今回は、そうした動きも受けての講座開催となりましたが、就労支援の実態や企業の取組など、参考になる話を聞けたと思います。
ちょっとした工夫やサポートで、知的障害者もその能力や個性をいかんなく発揮し、社会に貢献する事が出来ます。
いつでも健常者のほうが知的障害者よりも能力が上、という事は決してないし、場面や職種によって、どちらの方が能力が上の場合も下の場合もある、というのが真実でしょう。
これからも、個々の才能や強みが、思い込みや偏見の中に埋もれてしまう事が無いよう、支援を続けていきたいと思います。

講師の皆さん、参加者の皆さん、本当に有難うございました。


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