『始まります障害者差別解消法 ~これって差別になるんですか~』市民講座を開催しました


2016年3月6日、14:00~16:30まで、2015年度CIL豊中主催市民講座が、豊中市立蛍池公民館第一集会室で行われました。
本年4月より、新しい法律『障害者差別解消法』が施行となります。
正確には、『障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律』という、長い名称になりますが、この法律は、2006年12月に国連で障害者権利条約が採択されたのを契機に、日本の障害者制度の改革(障害者基本法の大幅改正など)が実行される中で誕生しました。
2013年5月31日付けで国会で可決し、2016年4月1日より施行開始となったものです。

今回、講師を務めて下さったのは、DPI(障害者インターナショナル)日本会議の、崔栄繁(さい たかのり)さんです。

崔栄繁さん


★条約があり、法律がある

法律の誕生がテーマとなる今日の講座ですが、はじめに条約の話をします。
条約というのは、基本的には『国と国との約束事』、つまり国際的なルールで、国内のみが適用対象となる法律より、法の権威という意味では一段上の存在となります。
従って法律は、言わば条約の方針に沿った存在であることが求められる訳ですが、その条約の中に障害者権利条約があり、日本国内に於いて、条約をきちんと守る体制を敷くべく、制定されたのが差別解消法です。
そのため、順番としては、先ず障害者権利条約について知り、その条約が何を目指し、どんな社会を築こうとしているのかを理解することで、今回の差別解消法の方向性や、『差別』の定義付けが、自ずと見えてくると言えます。

★障害者差別を考える上で大切な3つの概念

①社会モデル(vs医学モデル)
社会モデルとは、障害者が社会参加をする上で不利な状況に直面した時、その原因が、『社会にバリアがあるからで、社会環境が変わることで障害者は不利ではなくなる』という考え方です(例:聴覚障害の人に情報がきちんと伝わらないのは、手話や文字による情報提供をする等の配慮がないのが原因)。
医学モデルとは、障害者の障害の部分が悪いのだという考え方で、極端に言えば、その人の障害が無くなれば問題は解決する、という発想です(例:聴覚障害者に情報が行き渡るようにするためには、本人の耳が、聞こえる耳になればよい)。

②インクルーシブ社会
インクルーシブは、日本語では『含む』という意味で使われています。
「障害者である」ことだけを理由とした区別・排除・制限をせず、障害特性のありのままを受け入れて一緒に活動出来る社会のことをいいます。
食べ物に置き換えれば、『もんじゃ焼き』、『お好み焼き』、『サラダボール』、『ビビンバ』・・・・・。

③無差別・平等
他の者との平等を基礎とし、あらゆる形態の差別を禁止する、そして『あらゆる形態』の中に、『合理的配慮をしない』ということも含まれる、という考えです。
『他の者』とは障害のない人を指すが、これは逆にいうと、『障害者だけを特別扱いする』のが条約の主旨ではないということです。
健常者の人も日常、意識はあまりしないけれど、いろいろな権利に守られて生きています。
しかしこれらの権利が、障害者に対しては事実上、適用されていなかった、だから適用対象にしましょう、と謳っているのが条約です。
障害者がごく普通に人としての権利が認められるために、ここまで(その問題に特化した条約を作るまで)行わなければならなかったというのが、社会としての正直なところなのです。

★合理的配慮とは?


一言で説明すると、①『障害のある人が、障害のない人と同じように活動するための、変更・調整』②『健常者と同じ条件にしようとすると、障害特性上負担になる場合は、負担が掛からないようにすることを優先する』が、合理的配慮です。
これを障害者のために行うということは、さほど特別なことではありません。
健常者同士においても、『合理的配慮』というのは、敢えて実感はなくても日々、場面々々で行われていることです。
例えば、何百人も集まっている大ホールで、前の壇上でスピーチをする人が、後ろの席の人にも聞こえるようにマイクを使い、室内の複数箇所にスピーカーを設置するというのも、合理的配慮です。
これまで、障害者に対しての配慮というのを、社会が日常としておこなってこなかった経緯もあることから、一見大ごとで、特別なことに聞こえるだけです。
今回の差別解消法によって、社会(健常者)にとって過重な負担を伴う訳ではないにも関わらず、障害に配慮した行為を取らないことは、『合理的配慮をしていない』と見なされるようになります。

合理的配慮の例
・困っていると思われるときは、まずは声をかけ、手伝いの必要性を確かめてから対応する
・筆談、読み上げ、手話など障害の特性に応じたコミュニケーション手段を用いる
・意思疎通のために絵や写真カード、ICT機器(タブレット端末等)等を活用する
・入学試験において、別室受験、時間延長、読み上げ機能等の使用を許可する
・支援員等の教室への入室や授業・試験でのパソコン入力支援等を許可する
・取引、相談等の手段を、非対面の手段を含めて複数用意する
・精算時に金額を示す際は、金額が分かるようにレジスター又は電卓の表示板を見やすいように向ける、紙等に書く、絵・カードを活用する等して示すようにする
・重症心身障害や医療的ケアが必要な方は、体温調整ができないことも多いので、急な温度変化を避ける配慮を行う


★障害者差別解消法の課題

実際に差別が起きた時に、具体的にどうするのか?どう救済するのかというところが、かなり弱いという課題があります。
DPIとしては、条例作りをするなどしてカバーする運動をしていますが、「自治体で相談体制を整備して下さい」だけでは、自治体も大変ですね。
地域にある国の機関や民間のNPO団体が入れる対策協議会を作り、いわゆる『たらい回し』がないようにしよう、というのはありますが、ここをもっと強めて欲しいところです。
また、啓発広報も、これからより充実していくことが望まれます。
合理的配慮は、現状『努力義務』なところがありますが、法律の見直しが3年後に行われ、恐らくその段階で、『努力』ではなく、『義務化』されることが予想されます。
そのためにも、各団体・各事業者は、体制整備に励んで下さい。

★何が差別になるのですか?

今講座の重要なテーマですが、国のガイドラインの中でも明記されているのは、例えば以下のような事例です。

・障害者(視覚障害や精神障害など)に対して、「火災を起こす恐れがある」といったことを理由に、不動産屋が物件の仲介を断る。
・正当な理由なく、サービス提供事業者の選択を制限する。
・医療の提供に際して、必要な情報提供を行わない。
・交通機関に於いて、障害があることのみを理由として、乗車出来る場所や時間帯を制限する。
・学校への入学の筆談の受理、受験・入学・授業等の受講や研究・指導、実習等校外活動や、式典参加を拒むこと。
・試験の際、合理的配慮を受けたことと引き替えに、点数を低くすること。




後半は、パネルディスカッションを行いました。
パネラーを務めたのは、えーぜっとの会代表の井上康さんと、当センター外出支援サービス担当の室田です。

左から、井上康さん、室田、崔さん

井上さんの話:
ウチの作業所には知的障害の人もいるが、ヘルパーが、40~50代の知的障害者に対して、子どもに話すような話し方をしたり、上から目線で話をすることが多い。
もちろん、僕みたいな身体障害の人も差別されることがあるが、特に知的障害の人はその対象になりやすいと思う。
その一方で、個人個人の関係性を無視して、一律に『さん付け』で呼ばなくてはならないという現場もあり、そういうのを見ていると、形やマニュアルじゃないよね、と言いたくなり、悔しさも出てくる。
でも、こういう偉そうなことを言っている僕も、過去には、知的障害者に対して、今思えば差別的な態度を取っていたことも、あったかな?と今、気付いた。
「障害者も人間で、だから障害者だけ人を差別しないってことは無いんやで」って、むしろ伝えたい。


室田の話:
CIL豊中の外出支援サービスは、登録制になっているが、同じ障害に於いて、例えば手帳で何級以上は対象だが何級以下は登録対象ではないとか、手帳が無かったら登録出来ないとか、予めルールが決まっている。福祉サービスとして、どっかで線引きしないといけないかも知れないし、難しいのだけど、同じ障害者間で、条件次第で分けられるのが『差別』だ、と感じたこともある。


障害者差別解消法は、まだこれから試行錯誤が続いていくであろう新しい法律です。
当事者団体としては、今講座に留まらない啓発・広報に努めていくことや、そもそもまだ認知自体が充分なされていない障害に対して、理解を深めていくことが必要になっていくと思います。
それが、ひいては合理的配慮につながっていくでしょう。
合理的配慮は、広い意味で障害者の『基本的ニーズ』でもあると思いますが、ニーズというのは人それぞれで、障害の種別や特性によっても全然違います。
制度が浸透するにつれて、かえって『画一的な合理的配慮像』が一人歩きしないよう、そして、『障害者に特化した』という、別枠で捉えられることなく、「人間、誰しもお互い合理的配慮だ」との視点に立てるよう、社会に働きかけていきたいと思います。
当日参加して下さった皆さん、講師・パネラーの皆さん、手話通訳・要約筆記の皆さん、本当に有難うございました。



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