−視覚障害者の歩行の自由と安全を考えるブルックの会  シンポジウム−
『共に考えよう!駅ホームに潜む危険とホーム柵』に参加しました。


2006年12月20日より、『交通バリアフリー法』が改正されます。
2000年11に初めて施行されてから満6年、より具体的に、踏み込んだ内容を盛り込んだ法律に、変わることになりました。

今回、新たに加えられた内容の一つに、『駅ホームに可動式ホーム柵を設置すること。』というのがあります。
可動式ホーム柵というのは、ホームの際(電車に乗る時の、車両の手前部分)に設置する柵のことで、電車のドアが来る位置には、ホーム柵にもドアが設置(ホームドア)されます。
このホーム柵を設置することで、電車を待つ人が、ホームから線路へ転落する事故を防ぐことができ、中でも視覚障害の人は、常に誤って転落することと隣り合わせなため、おおいに安心感を与えることになります。

ただ、一方でまだ、可動式ホーム柵にはいろいろな課題があります。それをどう克服していけばいいのか?そしてまず何が課題なのか?
一つ一つ検証していくシンポジウムが、2006年12月3日(日)に行われました。


開催に先立ち、ブルックの会の佐木理人さんより挨拶が行われ、そのあと、『社団法人 交通バリアフリー協議会』のアドバイザー、高山晴彦さんによる講演が行われました。


挨拶をする、ブルックの会の佐木さん 会場風景


高山さんは、CG合成の動画も交えた多くのスライドを示しながら、
「可動式ホーム柵は、安全面では一番注目されている。列車を走らせながら工事が可能で、短期間で終わる。駆動部も、年に1回のグリスアップで間に合う。」
と、ホーム柵の持つ良さをPRしていました。その一方で、
「同じ線路を、異なった寸法に異なった扉数の車両が走ることも珍しくない。そういうところでは、なかなかホーム柵は設置できない。電車のドアの位置を、ホームドアの位置にピタッと合わせないといけないから、運転士に与えるプレッシャーが相当なものとなる。だから自動的に電車が定位置に停まるシステムを開発したいが、もしそれが実現した場合、システムに異常が起こったら大きな混乱を招くことになる。」
と、課題も決して少なくないことを述べていました。

講演する高山さん 交通バリアフリー協議会の取り組みを紹介


なお、可動式ホームドア柵には、大人の胸の高さぐらいまでの『簡易型』と、天井近くまで柵がある『フルスクリーン型』の2種類があり、フルスクリーン型は、上下両方から支える事ができるので、より頑丈に造れるということです。ただし、コストはかなり高くなり、また消防法により、上端数センチは隙間が空いています。
さらにホーム下から、センサーで引き出し&収納ができる可動式ステップを設置し、ホームと車両の隙間を少しでも無くそうという試みも始めたいと考えている。しかしこれを実行すると、交通法で定められている、ホーム先端と車両との間隔を守れないということで、実行は現段階では難しいという話もしていました。


普段、目で見ていてもなかなか気付くことのできない、細かい部分のメカニズムを、
多くの画像を用いて分かりやすく説明。なかなか斬新な内容だったと思います。


簡易型の、可動式ホームドア(左)と、『フルスクリーン型』と呼ばれるホームドア(右)。
画像はいずれも東京の地下鉄で、左が三田線日比谷駅、右が南北線白金高輪(しろがねたかなわ)駅です。



さて、講演の最後に、改正後の交通バリアフリー法の内容が、具体的に掲示されました。要約すると、以下のとおりです。


・車両の乗降口が常に同じであるなど、一定の条件を満たしているプラットホームには、ホームドアまたは可動式ホームドアを設置すること。
・エスカレーターに、行き先および方向を音声で知らせる設備を設けること。
・エレベーター、トイレなどの主要な設備の付近には、図による記号を設置すること。
・乗車券などの売り場に筆談用具を置き、『筆談用具がある』という表示をすること。
・路線バスや福祉タクシー、船などにも、筆談用具を備えること。
・鉄道車両において、号車番号を、文字および点字で表示すること。






シンポジウムの後半は、視覚障害当事者である三上洋さんと山本浩さん、そして前半で講師だった高山さんの3人によるパネルディスカッションが行われ、司会は、ブルックの会代表の加藤俊和さんが務めました。

ディスカッションの中で、特に弱視者にとっての、色のコントラスト(濃淡がハッキリしていること)の重要性が語られました。
特に視覚障害者が歩行する上で大変重要な点字ブロックについて、
「最近はファッション性やデザイン性を重視して、周りとほとんど同じ色(特に淡い色)の物がよく見かけられる様になっているが、点字ブロックの周囲だけでも濃い色の帯を敷くとか、 配慮をして欲しい。」
という要望が出されていました。

今回改正される交通バリアフリー法でも、この『色のコントラスト』については一切言及されていません。色の問題は何かとデリケートで基準を定めるのが簡単ではないという事でしたが、色のデザインを考える段階で、少しでもそういう事が配慮される様になったらいいな、と思いました。

また、同じく弱視者が道を歩く上で、カートを引いて歩いている人とぶつかりそうになった時、人をよけたと思っても、直後に付いてきたカートにぶつかる事が多い、といった報告がなされました。

シンポジウムのようす。
一番左端が、ブルックの会代表の加藤さん。
視覚障害当事者のシンポジスト。
左が山本さん、右が三上さん。


この日は、新しい交通バリアフリー法についての具体的な情報や、日頃から目で見ているだけでは分からない、可動式ホームドアの細かい構造、実用に至るまでの舞台裏の話を聞くことができて、勉強になったと思います。



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