豊中市障害者自立支援協議会主催研修
『もっと はたらける!』 〜支援機関と家族の連携を考える〜 に参加しました

2010年3月8日(月)、17:30〜20:00まで、豊中市障害者自立支援協議会主催による、研修『もっと はたらける』が行われました。
『はたらく』という事の大切さ、そして『はたらける人』になるために何が必要かについて、講演がなされました。
講師を務めたのは、NPO法人ジョブコーチ・ネットワークの職員で、自閉症の息子をもつ母親でもある、角田(つのだ)みすずさんです。

角田さんは、【今日お伝えしたい事】として、『はたらく大人を目指すわけ』、『ムリはしない。でも、あきらめない』、そして、『就労は一日にして成らず』という標語を述べられました。

続いて、『就労はゴールではない。スタートである』、『はたらくことは生きることだ』、『はたらく大人はつくられる。支援があれば子どもは育つ』
という言葉も述べられ、特に3つ目が、非常に核心を突いた言葉だと思いました。

角田さんの息子さんは現在19歳で、昨年まで支援学校に在籍していましたが、ほとんど在宅だったという事です。これからどんどん社会参加をしなくてはならないという時期を、過ごしています。
福祉就労も選択肢の一つだと角田さんは思っているのですが、息子さん本人は一般就労を希望しているそうです。

そして、息子さんはもともとは知的障害と見なされ、療育手帳を取得していたのですが、近年になって、『知的障害は無い自閉症で、発達障害』と判定され、そのため療育手帳の対象から外れました。
将来的には、『精神保健福祉手帳』を取得して働く事も視野に入れていますが、今の段階では療育手帳が必要なサービスは受けられません。
角田さんは、「これが息子に限らず、発達障害の人の就労が難しくなっている、一つの要因だと思う」と話していました。


「私はちょっと親バカなところがあるので、子どもの自慢話を一杯してしまうかも知れません。」
と角田さんは笑っていましたが、今でこそ我が子を誇りに思えるようになっていても、かつては疑問や葛藤の連続だったといいます。

「どうしてうちの息子はこんな事が出来ないの?」
「どうして何回も同じ事(失敗)を繰り返すの?」
「こんな簡単な事なのに、どうして分からないの?」等々・・・・・。

『子どもの行動が、お母さんの成績書になる』と感じた事もあったし、特に角田さんの場合、転勤が多かった事もあって、
『環境が変われば、そこで改めて障害を実感し、障害の受容が必要になってくる。障害の受容というのは、決して一度だけでは終わらない。』と感じていました。

会場全景。場所は市役所第2庁舎でした。 スライドより一コマ。T家とは、『つのだ家』という意味です。
「何とか追い付き、いつか普通に、社会に出たら困る」
これらの思いがプレッシャーになった人は多いと思います。


★発達障害者の就労を実現・継続していくために・・・・・☆

角田さんは、親・子ども・社会それぞれに課題があると考えています。

親の課題:子どもの意欲を育てる関わりを習得する。
子どもの課題:人の中で生きていくための準備をする。
社会の課題:親へのサポートを通して、子どもの発達を促す支援をする。


障害者の親の中には、自分の子どもが一旦は就職を果たしても、もしそこの会社で働けなくなったり、その会社自体がダメになったりしたら、その分の責任を全部親が取らないといけないと思い込んでいる人が、少なからずいるそうです。
また、第三者から「あなたのお子さんは就労出来ますよ。大丈夫ですよ。」と言われても、当の親自身は、今まで我が子と密に接し過ぎた経験が逆に災いして、【今までと今後】、【子ども時代と大人以降】というように割り切る事が、なかなか出来ないという事でした。


将来働ける大人になるために、子どもの時から身に付ける様にしてほしい事は、

・行動や生活の技術の開発させる・・・・・出来る事、わかる事を増やしてほしい。
・人から教わる姿勢を育てる・・・・・人から教わる力をぜひ身に付けてほしい。
・自我の形成・・・・・自己選択・自己責任という今の福祉の時代、自分を育てる事はとても大事。

「親としての感情で言えば、子どもの自我が形成されるというのは、非常に遣りづらいものです。だけど、自我が形成されてこそ、子育てがうまくいっている事になるのです。」


そして、「はたらく大人」の条件として角田さんが挙げたのが、次の3点です。

1.人から教わることができる人
2.ほう・れん・そうができる人
3.自分の選択に責任をもてる人


「自分がちゃんとこのとおりに出来ているかな?と反省する事があります。」
と角田さんは話していましたが、私自身にとっても、これは大いに反省しなくてはいけない、正直、耳の痛い言葉だと思いました。

『在宅という選択についてくること』として、我が子にも課した
『役割』、認識すべき『現実』を表しています。
私自身も一人の社会人として、
肝に銘じなくてはならないと感じたスライド表示。



角田さんは、かつて息子さんから次のような事を言われたそうです。
「オレの中のオレ。オレの操縦が下手だ。」

角田さんの息子さんは、自分で自分が自閉症である事を解っているという事です。
そのため、自閉症であるが故の葛藤を本人自身が日頃感じており、上の言葉は、「自分自身が、自閉症である自分をコントロールする時に、いろいろなところにぶつかったり、思いも寄らない基準を発射≠オてしまったりして苦労する。」
という気持ち(もどかしさ)を表しています。

周り(特に親)以上に実は本人が、自分が自閉症である事に苦しんでいるのかも知れません。


★支援者が親を褒める事で、親は自分の子どもを肯定出来る様になる☆

最初はどうしても我が子の行動を問題視≠オてしまっていた角田さんですが、周りの支援者から、息子さんの行動をプラス視点から捉えられた経験を通じて、角田さん自身の子どもへの見方も変わってきました。例えば以下の様にです。

・食べ物を腕の上に並べて遊んだ→【この子は“モノを並べる”事が出来るし、一つの事をやり続ける集中力がある】→規則正しく物を並べる作業をこなせる様になった。
・水道水を一杯一杯まで出し続けた→【蛇口を器用に捻る事が出来る】→物を何回も捻らないといけない作業が出来るのでは?
・米びつから米を撒く事を繰り返した→【米を触る事に関心を示す事が出来る】→家でご飯を炊く担当を任せられるようになった。
・十字ドライバーで机のネジを外す事に夢中になった→【ドライバーの扱い方をマスターしている】→引っ越しの時、机をバラす作業を任せられた。

角田さんは、「指示を出す時は、『この位置まで線を引く』『この部屋を掃除機かける』のように、動作の言葉を使って下さい。『きれいに』『きちんと』などの形容詞の言葉は、伝わりにくいので使わない方がいいです。」とアドバイスをしていました。
また、「“ダメ”という否定的な言葉掛けは避けて、『ここまでやったらいい。』『この線まで来たら終わりにしよう。』のように、肯定系の表現を使って下さい。」と伝えていました。

『イキイキ(と働く)』ってどういう事だろう?
角田さんが、ネットで調べた事を列挙してみました。
息子さんの、今の様子と今後への期待を伝えています。


角田さんの息子さんは、現在も在宅生活をしていますが、料理などの家事をしっかりこなしており、また、練習熱心で失敗しても何回も練習しています。また、兄弟ともうまく連携して、【任せる−任される】、【教える−教わる】の関係も成立しているという事です。

「家庭での役割をきっちり果たしていく中で、スキルが身につき、就労につながればいいな。」という話をして、結びとなりました。
人に仕事を教える立場にある人にとっては、得るものがたくさんある講演だったのではないかと思います。
【受け止める側の解釈の仕方を知る】という事が、コミュニケーションを円滑に進める近道なのかも知れません。



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